美しき島を456たちが駆け抜ける(後編)

フェリーで1時間ほどの船旅を楽しんだあとは、エルバ島の表玄関、ポルト・フェライオから早速海岸線の美しいワインディングへと向かう。オープンロードではV12の響きも心地よい。550マラネロまで搭載されたこのF116はクラシカルな味わいも感じさせ、集団はハイペースでエルバ島滞在の拠点となるポルト・アズーロを目指した。

今回集まった個体で多いのがブルーメタリック系(ブルーTdF)、続いてグリージョ系、ロッソ系と続くが、その中に1台黄色の個体があるではないか。かつて筆者は黄色の456GTは1台のみが生産され、それもフェラーリの当時No.2とも言われたG氏所有の個体だったと聞いていたからびっくり。オーナーのサムエルに聞いてみるならば、「その情報は正しくないね。私が特殊なルートで調べたところによると黄色はオフィシャルの9台が作られ、それぞれスイスと……」と話が止まらない。さすが456GTオーナーはマニアック系が多い。ちなみに彼は黄色のフェラーリ・アイテムを山と持参し、デザイナーのピエトロ・カマルデッラにひとつずつサインしてもらっていた。

ピエトロと言えば、イベントの最中は引っ張りだこだ。皆、フロントの”コファンゴ”(フェンダー一体式ボンネット)を開けて、タイヤハウスの上部に彼のサインをねだられるのだから、「返す返すもヘッドライト後部のエアダクトは要らない、何とかしてほしいよ」とブツブツ。この件を知りたい読者の方は本誌バックナンバー(No.137)をぜひご覧頂きたい。そして、456Mにサインを乞うオーナーには「これはケン(奥山氏)の名前をもらった方が良いな」と丁寧なフォローも。アペリティーヴォに新鮮な魚料理を堪能しつつ、エンスーな夜はなかなか終わらない。

翌日は海岸線から内陸部へと入り込み、山間部のツーリングだ。エルバ島にはかなり険しい山もあり、登山も楽しめるという。そしてエルバ島と言えばナポレオン。彼が幽閉された場所なのだ。ちょうど、行きのフライトでリドリー・スコット監督の『ナポレオン』を見たところだから、何か臨場感がある。ポッジョ村のカゼッタ・ドルーオではナポレオンや婦人が当時のコスチュームを纏い、当時にタイムスリップした寸劇を演じてくれる。残念ながら筆者の語学力では眠気と戦うのが精一杯であったが、最後にナポレオンにサインをもらい握手をして屋敷を後にした。

とにかく長距離を走りに走った。ミスコースしても、ルートはシンプルだからすぐにリカバーできる。それぞれ車歴は20年を超えているにも関わらず、どの個体も手入れが行き届いているためだろうか、トラブルもない。特にリーダー、アレッサンドロの1996年式で、外装色が『BluSwaters』の個体はスペシャルだった。エキゾースト系がマニフォールドから全てモディファイされている(但し音量はノーマルに抑えてある)以外はとことんオリジナルに拘っている。「いちばん苦労したのはこの純正モトローラ製セルラーフォン(携帯電話)でした。もっとも今は使えませんけどね」と笑う。ステアリングを握らせてもらったならば、エンジンマウント類なども良い状態に保たれていることもよくわかった。

エルバ島はイタリア人がとても好きなリゾート地であるが、不思議とよくある観光地の浮ついたところがない。だから何度もここを訪れるリピーターが多い。イベント主催者のアレッサンドロは祖父の代からこの地に別宅を構えており、今回筆者はその落ち着いたヴィラに泊めていただいた。そう、何やら456GTもそんなエレガントでありながらも、押し付けがましくない上品さを備えているという点で同じ匂いがする。今回週末を楽しんだ30名余りの仲間達も含め、素敵な世界観を楽しませて頂いた。

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