いつか振り返った時に「フェラーリ・レーシング・デイズ2024」

鈴鹿サーキットへ向かう途中、東名阪自動車道の鈴鹿ICを降りる直前で、名古屋ナンバーの2台のフェラーリと一緒になった。さらにその横を、富山ナンバーのフェラーリが走っていき、各地からフェラーリが集っているのをいきなり実感する。

雨音のせいであまり気にしていなかったが、信号待ちで2台の後ろについたら、乾いた力強いアイドリング音が聞こえてきた。おお……と、否が応でも気持ちが昂る。

『フェラーリ・レーシング・デイズ2024』が開催されている鈴鹿サーキットのゲートに到着すると、ちょうど、サーキットの中からF1が走る甲高いエキゾーストノートが聞こえてきた。おお! とひとりの車内で思わず声が漏れる。ゲート付近でカメラ片手に”入り待ち”をする熱心なフェラーリ・ファンたちも、どこか嬉しそうだ。

世界的に展開されているフェラーリ・レーシング・デイズ(以下FRD)は、日本でも2012年から開催されてきている。これまで毎年開催ではなかったが(コロナ禍の中断もあった)、昨年の富士スピードウェイ、今年の鈴鹿サーキットと続いたことで、今後は毎年、場所を交互にして開催していくようである。

FRDを簡単に説明するならば、レーシングカーを主役とするフェラーリの公式サーキットイベントだ。今年は6月29~30日に鈴鹿サーキットで開催され、550台以上/1100人以上の参加があった。

中でも圧巻は5台のF1マシンが参加した『F1クリエンティ』、7台のカスタマーレーシングカーが参加した『XXプログラム』、そして31台が参戦した、1日1レース、合計2レースが行われた『フェラーリ・チャレンジ・トロフェオ・ピレリ・ジャパン』だ。やはりフェラーリの本懐はモータースポーツ、サーキットであると、活き活きと走っている”跳ね馬”たちを見ていると、改めてそう感じさせる。

雨に濡れたフェラーリも悪くない!?

到着後、まずは、パドックとピット前を歩く。

生憎の雨ながら、オーナー諸氏には申し訳ないが、雨に濡れたフェラーリも悪くないなぁと思う。滑らかなフェラーリのフェンダーを雨の雫が流れる光景は、人を詩人にさせる、十分にロマンティックな光景だ。ちなみに古いフェラーリにとって紫外線は敵ということで、「快晴よりは雨のほうがありがたい」なんていう声も聞こえてきた。

F1が置いてあるピット付近は、この時代特有の燃料と排ガスの匂いで満ちていて、いかにも……と思って中を覗くと、1台だけ黄色い、F1ではない、見覚えのあるレーシング・フェラーリが佇んでいた。

さ、さ、サ、サ、333SP!

それはもちろん、1990年代にスポーツプロトタイプで活躍した名レーシング・フェラーリであり、現在のオーナーは最近手に入れて、このFRDは初めて参加したとのこと。この日は雨で走らなかったが、終日晴れだった初日は実際に走行もしたそうで、スケジュールの都合で2日目しか取材に来られなかったことを、猛烈に後悔する。

他は、初日にデモランがあった『296チャレンジ』の日本初お披露目、こちらは最近日本で初お披露目されたばかりの新型モデル『12チリンドリ』といったあたりが目玉で、さらに、『フェラーリ・クラシケ』のブースに力が入っていたことは見逃せない。

クラシケのブースには250ヨーロッパと(288)GTOを展示し、両日ともヤングタイマー世代をテーマとした、『クラシケ・ミート』と呼ばれるオーナー参加型の展示イベントを展開。来場者による参加車の人気投票も行い、初日はエンツォ、2日目はF50がそれぞれ1位に輝いた。個人的にはバーグマン・カラーの612スカリエッティに惹かれたら、しっかりそれも3位に入っていて、来場者の審美眼の高さを感じた。

好評連載中! 西川 淳さんのテスタロッサも飾られる

また、その一角にはSCUDERIAでレストア連載をしているテスタロッサも飾られ、レポートを担当するオーナーの西川 淳さんは、両日ともトークショーに登場。自分で撮影した写真を見せながら、フェラーリ本社のフェラーリ・クラシケについて話すなど、興味深い内容が続いた。

今度はコース上に目線を移す。

すると、雨の中、しぶきをあげて走っていくレーシング・フェラーリたちの姿が目に入ってきた。おお……なんと美しいのか……。

さらにお昼頃にはパレードランが行われ、296チャレンジを先頭に200台以上が参加。隊列を組んで鈴鹿サーキットのコースを埋め尽くしていく、赤を中心とした色とりどりのフェラーリたち。その風景はいかにも華やかで、色気を隠せない。

そのままラウンジに移動し、少し遅めのランチを頂いた。お馴染みのイタリアンランチは安定の美味しさで、今回はトスカーナのクリームパスタが、何度もおかわりしたくなる美味さだった。

テラスに出ると、既に雨はあがっていて、ちょうどF1がホームストレートを駆け抜けていく瞬間だった。身体の芯まで響いていく、エキゾーストノート。これを見られただけでも鈴鹿に来てよかったと、心の底から思う。

ラウンジに戻ると、1枚のモノクロ写真に目が留まった。

エンツォ・フェラーリとジル・ヴィルヌーヴと思しきF1パイロットが談笑する様子だ。

そこでふと気が付いた。

そうか、今自分がいる場所は、そんな彼らが紡いできたフェラーリの歴史の一部なのだ、と。

今は実感がない。しかし、いつか振り返った時に、この1秒1秒、周囲の一挙手一投足、その全てが貴重なフェラーリ体験であったこと、そして知らない間に、フェラーリの長い歴史、その一部に身を置いていたことに気が付くのかもしれない。

また来年も来ようと思った。

文&写真●平井大介

text&photographs by Daisuke Hirai

写真&取材協力●フェラーリ・ジャパン

photographs&cooperation by Ferrari Japan KK

今すぐ読む