イタリア語で“12気筒“を意味する「12Clindri (ドーディチ・チリンドリ)」のスパイダーモデル「12Cilindri Spider(ドーディチ・チリンドリ・スパイダー)」をポルトガルのリスボンで試乗する機会に恵まれた。自然吸気V12の圧倒的なパワーとフェラーリサウンドをオープンエアで満喫するという特別な一日をレポートする。
12チリンドリ・スパイダーのデザインコンセプトとは
トランジットを含め日本から24時間ほどで到着したリスボン空港から、送迎車でオニリア・マリーナ・ブティックホテルへ。ゴルフコースが併設された海近のリゾートでは、その夜のブリーフィング会場に真っ赤な12Cilindri Spider(ドーディチ・チリンドリ・スパイダー)がライトアップされていた。実車は写真で見るよりワイドかつグラマラスに感じられ、展示車は赤ということもありかなり派手。今回のデザインで特徴となっている、ヘッドライトまわりとリアに配された黒いラインにより、赤と黒のコントラストがはっきり区別されている点も個性的だ。
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12チリンドリ・スパイダーのコンセプトは、1950〜60年代に誕生したフェラーリのオープントップ・グランツーリスモにインスピレーションを得たもの。フロントミッドに搭載された6.5リッターのF140HDエンジンは、フェラーリの魂たる自然吸気V12の新バージョンで、最高出力は830馬力、最高回転数は9500rpmまで引き上げられている。このエンジンをロングノーズ、ショートデッキという伝統的レイアウトに納めながら、デザインはこれまでのスタイルとは大きく異なり、より未来的になっているのだ。特にフェンダーと一体化したボンネットは流麗でたくましい印象を生み出している。フロントは1968年にリリースされた365GTB/4(デイトナ)を彷彿させる部分もあるが、デザインアプローチはそこから始まったのではなく、当時、SFにインスパイアされたカーデザインやフューチャーデザインを参考に、未来的な特徴を全て取り入れていった結果生まれたものだそうだ。
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12チリンドリは365GTB/4の新バージョンではなく、未来のその先を見据えている
12チリンドリのローンチがマイアミだったということもあり「デザイン当初から365GTB/4(デイトナ)を意識していたのですか?」と質問をした私に、今回登壇したエクステリアデザイナーのアンドレア氏は以下のように説明を続けた。
「私たちは365GTB/4の新バージョンを作りたかったのではなくて、逆にそれを捨て去りたかったんです。全てのボディと全ての要素の絶対的な統合をデザインに求め、その結果ボディラインがかなりスッキリしているのが分かると思います。正面のデザインも顔の表情というより、少しミステリアスで工業デザイン的なオブジェのようなアプローチをしていきました。例えば1960年代にピニンファリーナがディーノ・コンペティツィオーネをデザインした時に、グラスシェルの奥にヘッドライトをレイアウトしました。これは、今回12チリンドリで、一つの黒いエレメントの中にヘッドライトやエアインテーク、インジケーターやバンパーを隠したのと似た手法です。点灯時だけに見ることができるライトや、リアでは黒いブレードの中に可変ウイングをレイアウトしたことに似ています」
「また、チーフデザイナーのフラビオマンゾーネは、当時のデザイン要素が何故、どのようにオリジナルマシンに搭載されたかを重要視しています。365GTB/4(デイトナ)以前のクルマでは、フロントデザインにプラスチックのスクリーンを見ることができず、クルマには必ず二つのヘッドライトとグリルが装着されていました。しかし、未来的なデザインを取り入れることで、365GTB/4(デイトナ)のようなデザインが生まれたのです。ただ最終的な完成系を知るだけではなく、その時代の方法論や考え方を知ることが、未来のその先を見据えることにつながると考えているのです」
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往年のGTからインスパイアされ、しかも時代の先を見据えた未来的デザイン。リアフェンダーの膨らみはどこかクラシックで、言われてみれば概要説明のビデオで登場した250GTOっぽくも見える。ちなみに、12チリンドリスパイダー発売に際し812スーパーファストのクーペとスパイダーの販売比率についてイギリスのジャーナリストから質問が出ていたが、これは50:50とのこと。国によりオープントップが推奨されない地域では90:10となるところもあるが、世界規模では50:50くらいになるため12チリンドリでも同様の割合になると考えているようだ。
絶品シーフードのレストランまでリスボンの海岸線を進む
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試乗会当日の朝は残念ながら雨でダウンジャケットが必要なほどの寒さ。ホテルのエントランスに次々と試乗車が集まってくるが、カラーがグリーンということで、昨日の真っ赤なスパイダーとは違いかなり落ち着いた印象だ。黒とモスグリーンのコントラストは、リゾートホテルにもさりげなく似合い、日本でも落ち着いて乗れる良い色合いに感じる。
ポルトガルを走るのは初めてだが、今回のルートは前日にインストールした「TourBoss」というアプリが道案内をしてくれるという。午前中のルート1、午後のルート2と別々にコースが指示されるため、早速Appleカープレイを経由しセンターディスプレイにナビを表示させた。
包み込まれるようなデュアル・コックピットとサステナブル素材のシート
インテリアはプロサングエでもお馴染みの左右対称のデュアル・コックピット・アーキテクチャーが採用され、レザーとメタルのコントラストと共に低い着座位置もあって包まれるような感覚だ。シートはリサイクルポリエステルを65%使用したアルカンターラで覆われ、インテリアの質感は極めて高く洗練されている。
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ディスプレイは15.6インチのドライバー用、センターには10.25インチのタッチスクリーン。パッセンジャーシートにも8.8インチのディスプレイと3つレイアウトされており、スタッフに主要機能の説明をしていただく。マネッティの設定、オーディオにマッサージ機能、ステアリングに備わる十字キーや各種ボタンでの設定は多岐にわたるが、雨ということもありマネッティーノはWETにし、とりあえずATモードでスタートすることにした。
午前中は海沿いの道が中心でヨーロッパ最西端の名所であるロカ岬を経由し、絶品シーフードと絶景が楽しめるAltaレストランまで約100kmを走るというコース。結構な雨の中、海岸線や郊外の街中を進んでいく。ATモードで街中を流していくというドライブでは、低回転のため室内はそれほどエンジンサウンドが聞こえず、静かで乗り心地もすこぶる良い。ナビの速度警告音と、車線を越えたときに発するADASの振動音だけが室内に響いてくる。ちなみに、ポルトガルの人は雨の中でも平気でガンガン飛ばし煽ってくる。最初の一時間は道の狭い箇所があり、車幅感覚にも慣れずかなり慎重にドライブしていたが、ロカ岬に到着する頃にはすっかり慣れ、道も広くなったため、パドルシフトに切り替えV12のエンジン音を楽しむことにした。
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雨が降っていたが、リアのセンターウインドウを開けることで、濡れずにV12の排気音をダイレクトに楽しむことができる。最新型のフェラーリV12サウンドを聞きたくて、どうしてもアクセルを引っ張り気味にして、シフトチェンジしてしまう。5000回転の音、6000回転の音、何重にも深く響きわたる排気音にすっかり魅了されてしまった。昨日のディナーで同席したパワートレインの担当のエンジニア、リカルド氏が「V12の素晴らしい音を楽しんで!」と送り出してくれたが、小雨となりオープントップにすることで、クルマの魅力は倍増した。開閉スピードは14秒で時速45km以下であれば走行しながら開閉することが可能だ。圧倒的な開放感とV12サウンド! リスボン郊外の流れてゆく街並みと共に、コックピットは最高に贅沢なエンターテイメント空間となった。レストランに到着した時には晴れ間も見え、クルマにも慣れてきたということもあり、かなりテンションも高めだったように思う。最初の緊張はどこかに消え去り、12チリンドリ・スパイダーにすっかり愛着が出てきてしまっていた。
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レストランで迎えてくれたフェラーリのスタッフに私の興奮が伝わったのか「何が一番エキサイティングだった? 音か? パワーか? 音が素晴らしいだろ?」と何人かに声をかけられた。フェラーリサウンドと呼ばれる排気音のチューニングに何千時間も費やしたとのことで、音に対する開発者の熱の入れようがよく分かる。12チリンドリスパイダーでは最新の騒音規制の制約を守りながら、V12フェラーリサウンドをドライバーが堪能できるよう、旧排気ダクトのあらゆる要素を最適化しているという。具体的にエキマニでは各バンク6-in-1の等長マニホールドとし、点火順序による美しい倍音成分をすべて響かせたほか、吸気と排気のシステムがそれぞれに放つ高周波音と低周波音を調整して融合。シフトチェンジ時のエンジンサウンドを強調し、フロントではインダクションから、リアではテールパイプから発生する音源が、キャビンでどのように合流しドライバーを包み込むかを細かくチェックしているのだそうだ。
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ブリーフィング時に「V12がフロントミッドに搭載された12チリンドリ・スパイダーは、ルーフを開けることでドライバーがV12エンジンと一緒にいる感覚がさらに増加。サウンドは最も重要かつスリリングな体験です」と説明を受けたことを思い出した。その感覚は、この日の午前中で十分に味わうことができたのである。
さて、午前中の目的地、Altaレストランは海が一望できる素晴らしいロケーションであった。ここで、ホタテや白身魚のソテーに舌鼓をうち、いよいよ午後のルートへと進んでいく。
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